001_32_女帝と呼ばれる位置に立つ(4)

ママの言葉は、そこで止まった。
余白が残る。

最後の一線には、踏み込まない。
その代わりに、わずかに口元が動く。笑っているように見える。

主導権は、手の中にある。
そう示すだけの、短い表情だった。

部屋は静かだった。空気が動かない。
音も、ない。
時間だけが、少しだけ伸びる。

彩名は、視線を外さなかった。

ママを見ている。逸らさない。逃げない。
そのまま、言葉を置く。

「それは、誤解です」

声は低い。揺れはない。

「……あたしは、別に」

一拍、間を置く。
言葉を選ばない。そのまま続ける。

「お2人の間に、割り込もうとは思っていません」

部屋の空気が、わずかに変わる。
目に見えないところで、何かが外れる。

ママは、すぐには反応しなかった。表情も、動かない。
ただ、見ている。
彩名の目を。

そのまま、しばらく続く。
沈黙が、落ちる。
長くはない。だが、切れない。

彩名は、続ける。

「……あたしは」

一度だけ、息を整える。視線はそのまま。

「ただ、上を目指したいだけです」

それで終わる。
余計な言葉はない。補足もしない。
理由も、並べない。
そのまま、置く。

ママの目が、わずかに揺れる。

ほんの少しだけ。光が、変わる。
潤んでいるようにも見える。

すぐに戻る。
だが、完全には戻らない。

最初の表情とは、違っていた。
ママは、何も言わなかった。言葉を選んでいるわけでもない。
ただ、出さない。

そのまま、座っている。
姿勢も、変えない。動かない。

彩名も、動かない。

同じ距離のまま、向かい合っている。
空気が、静かに変わっていた。

さっきまでとは、別の形で。
誰も、それを言葉にしなかった。



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