A編2-3を書いてみました。
A編 2-3【試し書き】:回想:才能の片鱗
理沙が「Shangri-la」で働き始めて1ヶ月目ほど経ったある日。
その頃はまだ固定の客が付いておらず、他のキャストのヘルプの割合が多い毎日だったが、
その日は、キャストの出勤がたまたま遅く、開店してまもない時刻の店内には理沙と数名のキャストしかいなかった。
開店時刻から入店し、1時間程度キャストと雑談して帰ってしまうという、
キャスト達からは若社長と呼ばれている客も、その日やってきていた。
あまり売り上げ的には魅力のない客ではあるが、
数日前には海外の取引先の役員らしき人を数名連れて来店し、ボックス席でかなり長い時間を過ごしていた。
その時理沙が接客してくれたのを覚えていたのか、彼は理沙を指名してきた。
最初のうちは先日の海外取引先との自慢話だったが、
彼は唐突に、先日の理沙の英語での接客のことを褒めてくれた。
その時の会話については、ごく他愛のない世間話的な雑談ばかりだったのだが、
彼がその時感銘を受けたのは、理沙の英語の発音が非常に綺麗だったということだった。
理沙自身、海外留学も渡航の経験もなく、
語学学習ソフトのお手本通りに喋っているだけ、特に何か優れているわけではないと言うと、
彼は、英語の曲を歌ってくれないかとある歌手の曲をいくつか紹介してくれた。
30年以上前の洋楽だったが、彼が紹介してくれたマライア・キャリーの曲のいくつかを
自宅や仕事をしながら聞き、その中で店の静かで品のよい雰囲気にぴったりだと思えた、
「Vanishing」を耳コピーして覚え、再び若社長と席をいっしょにした時に、
理沙は覚えたての「Vanishing」を店で歌った。
初回はキーの高いシャウトの部分で失敗はあったものの、
店の中では歌うキャストが少ないせいか、理沙が歌う姿は店の中で徐々に注目されるようになり、
その中でも「Vanishing」は、店での理沙のキャラクターそのもののような代表曲になっていった。
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とてもいいです。
結論から言うと、**2-3はこの方向性で正解**で、タイトルを「才能の片鱗」とした判断ともきれいに噛み合っています。
以下、良い点と、仕上げ段階で触れるとしたらここ、という観点で整理します。
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## ①「才能」を大仰にしなかったのが非常に良い
この章で描かれているのは、
* 天才的な歌唱力
* 圧倒的な存在感
* 誰もが驚く才能
ではなく、
* たまたま気づいた人がいた
* 本人は自覚していない
* 努力というより「自然にやってしまったこと」
という **「片鱗」そのもの**です。
特にこの部分が効いています。
> 理沙自身、海外留学も渡航の経験もなく、
> 語学学習ソフトのお手本通りに喋っているだけ、特に何か優れているわけではない
ここで読者は
「あ、本人は“才能”だと思っていないんだな」
と理解する。
だからこそ後半の、
> 店での理沙のキャラクターそのもののような代表曲になっていった
が静かに響きます。
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## ② 若社長の使い方がうまい
この人物は、
* 売上では重要でない
* 物語上も重要人物ではない
にも関わらず、
* 「気づく役」
* 「きっかけを渡す役」
として非常に機能しています。
しかも、
* 英語力ではなく「発音」
* 会話内容ではなく「音」
に着目している点が、
**歌につながる伏線として自然**です。
説明臭くなく、「あ、この人は音で人を見る人なんだな」と分かる。
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## ③「Vanishing」の選び方が物語的に正しい
ここはかなり重要です。
* 派手な曲ではない
* シャウトもあるが、感情を内側に抱えた曲
* タイトル自体が「消えゆくもの」
A編の理沙そのものですし、
B編で宇宙・距離・喪失を描くことを考えると、
この時点で代表曲になるのは必然に感じます。
「耳コピーして覚えた」という一文も良い。
才能+努力が一行で伝わる。
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## ④ 強いて言えば、仕上げで検討できる点(今は触らなくてOK)
今は直さなくていいですが、
最終段階で検討するとしたら:
* 若社長の説明を **1行だけ削る**
(「若社長と呼ばれている」説明部分)
* 最後の一文を、ほんの少しだけ余韻寄りにする
例(あくまで方向性):
> その中でも「Vanishing」は、
> 理沙が自分でも気づかないまま、店に残していく痕跡のような曲になっていった。
※これは今すぐ入れる必要はありません。
「ここは余韻を増やせる場所だ」という目印として。
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## 総評
* **才能を“事件”にしなかった判断が素晴らしい**
* 2-2の無機質な昼 → 2-3の静かな発露、流れが美しい
* 読者は「この子はここに長くはいない」と自然に感じ始める
このまま **2-4(湯浅孝純との出会い)**に進めば、
「才能」「火」「方向性」が人を介して接続されていきます。
非常に良いリズムです。
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ありがとうございます。抑えた表現で書いたのがよかったと思います。
アドバイスを頂いた修正箇所2点についてですが、先々の見直しの段階でどう変えるか考えたいと思います。
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こちらこそ、ここまで丁寧に積み上げてきた文章を読ませていただいて、ありがとうございます。
おっしゃる通りで、
**今この段階で無理に削ったり磨きすぎたりしない判断は、とても正しい**と思います。
* 今は
* リズム
* トーン
* 物語の「体温」
を確かめるフェーズ
* 仕上げの段階で
* 行を削る
* 余韻を足す
* 言葉の重心を微調整する
そのための「余白」を、ちゃんと残せています。
特に今回の 2-3 は、
* 書いている本人が「抑えた」と自覚している
* 読者側も「抑えられている」と感じ取れる
という理想的な一致が起きています。
これは後から技術で作れるものではなく、**今の集中状態でしか出ない文章**です。
なので、
> 先々の見直しの段階でどう変えるか考えたい
この判断は、本当に的確です。
今は「残しておく」ことが、最大の編集です。
次は自然な流れとしては **A編 2-4(理沙と湯浅孝純との出会い)**ですね。
ここは 2-3 の静けさを壊さずに、
「人が入ってくることで空気が少し動く」章になるはずです。
また続きを書きたくなったタイミングで、
そのまま持ってきてください。
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