「Vanishing」のイントロが流れる中、理沙はステージでマイクを握り、息を整える。
入口から入ってきた湯浅の姿が視線の端に残り、最初の声はわずかに震れる。
それでも理沙は余計なことを考えず、歌だけを追い始める。
フロアのざわめきは少しずつ引き、会話やグラスの音も遠のいていく。
湯浅は席に着き、黒服と短く言葉を交わしたあと、腕を組んで理沙を見つめる。
その視線は評価でも驚きでもなく、ただ静かに彼女の歌を受け止めるものだった。
理沙は一度だけ湯浅を見るが、すぐに歌へ戻る。やがて声は安定し、空間全体がひとつにまとまっていく。
最後のフレーズを歌い終えると、店内には大きくはないが途切れない拍手が起こる。
理沙が顔を上げると、フロアはいつもの明るさに戻っていた。
ただ一つ、湯浅の視線だけは変わらず理沙に向けられていた。
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