時間が経つにつれて、店の中での位置は変わっていった。
名前を呼ばれる回数が増える。席に着く時間が長くなる。
理沙も、彩名も、
いつの間にか数字を持つ側に入っていた。
目立つ。
それだけで、空気が変わる。
ママの視線が、外れなくなる。
理沙は、その視線を正面から受けていた。
緩まない。
崩さない。
それでいいと思っていた。
指摘はある。
だが、範囲の中に収まっている。
修正すればいい。それだけだった。
彩名は違った。
同じ場にいて、同じように数字を出している。
それでも、扱いが違う。
仕草。
言葉の選び方。
間の取り方。
細かいところで止められる。
「今の、違うよね」
短く言われる。理由は説明されない。
彩名は何も言わない。
ただ、うなずく。
そのまま戻る。それが繰り返される。
営業が終わる。
全員が揃う。
ママが前に立つ。
その日の流れを、短く振り返る。
良かった点。
悪かった点。
順に並べていく。
途中で、彩名の名前が出る。一度では終わらない。
重ねて言われる。
具体的な指摘が続く。
内容は細かい。
だが、線がある。必要以上に踏み込んでいる。
理沙はそれを聞いていた。
視線を上げない。表情も変えない。
それでも、分かる。
やりすぎだと思った。
周囲の空気が変わる。
他のキャストの視線が集まる。
直接は見ない。
だが、向いている。言葉は出ない。
代わりに、別の場所で出る。
小さな声。
笑いを含んだ息。
聞こえるか聞こえないかの距離で交わされる。
彩名は反応しない。
その場では、何も言わない。
一度だけ、言いかけたことがあった。
別のキャストとの間で。
声が少しだけ強くなる。
理沙が間に入る。
「いいから」
短く言う。それで止まる。
そのあと、何も残さない。
営業が終わる。
片付けが進む。
人が減っていく。
名前を呼ばれる。
「彩名」
ママの声だった。
彩名は顔を上げる。
「ちょっと来て」
それだけ言う。
彩名はうなずく。理沙の方を見ない。
そのまま歩く。
VIPルームの扉が閉まる。中の音は聞こえない。
時間が過ぎる。
どれくらいかは分からない。
人はもう、ほとんどいなかった。
扉が開く。彩名が出てくる。
歩き方が、少しだけ遅い。
顔色が落ちている。
視線が定まらない。
それでも、止まらない。
理沙の横を通る。一瞬だけ、目が合う。
何も言わない。
そのまま、通り過ぎる。
手が、強く握られている。爪が食い込むほどに。
理沙は、その手を見た。
声はかけなかった。
かける言葉も、浮かばなかった。
ただ、そのまま見送った。
|