001_27_クリスマスの夜のサプライズ(2)

その夜、理沙は仕事を抜けた。

時間はぎりぎりだった。
店の空気を背中に残したまま、外に出る。
街は、いつもより明るかった。

人の流れに逆らいながら、目的の場所へ向かう。
小さなライブハウスだった。
入口で名前を確認され、中に入る。

空気が変わる。

熱と音が、まとまって押し寄せる。
まだ余裕はある。
だが、時間が経つにつれて人が増えていく。
気づけば、隙間はほとんどなくなっていた。
人の肩が触れる距離で、立つ。照明が落ちる。

音が鳴る。
ライブは、すでに始まっていた。

理沙は、少し後ろの位置にいた。

ステージ全体が見える。
視線を固定する。何も考えないようにする。

それでも、体の奥が少しずつ上がっていく。
2組目が終わる。短い転換の時間。機材が入れ替わる。

理沙は、無意識に手を握っていた。
指先に力が入る。
ほどかない。

3番目のバンドが呼ばれる。

湯浅の姿が見える。ステージに立つ。照明が当たる。
位置を確認する。
その動きが、少しだけ違って見えた。

音が鳴る。
最初の曲が始まる。知っている曲だった。
観客の反応が早い。

手が上がる。
声が混じる。
リズムが合う。

理沙は、その中で動かなかった。ただ、見ている。

2曲目も続く。流れは崩れない。
空気がまとまる。
3曲目。

湯浅が前に出る。ギターを持っていない。そのまま体を揺らす。
観客の間に、笑いが起きる。
次の瞬間、音に合わせて動き出す。

エアギターだった。

以前、見たことがある。
山下公園で。
あのときよりも、無駄がない。動きが揃っている。
一つ一つが、はっきりしている。

観客の声が上がる。手が叩かれる。
空気が、一段上がる。

理沙は、それを見ていた。視線を外さない。

曲が終わる。
音が切れる。
拍手が続く。

湯浅がマイクを取る。息を整える。少しだけ笑う。

「次、オリジナルやります」

声は落ち着いていた。
理沙の中で、何かが動く。
バンドメンバーの名前が呼ばれる。

1人ずつ、紹介される。

短い言葉。無駄がない。
続けて、曲の話になる。

「ちょっと、重いかもしれないけど」

軽く言う。
客席に、小さな笑いが混じる。

「でも、ちゃんと届けばいいなと思ってます」

それだけだった。

理沙は、息を止めていた。照明が少しだけ変わる。
空気が、静かになる。
イントロが流れる。

最初の音。

それを聞いた瞬間、理沙の中で何かが揃う。
音と、言葉と、時間。
すべてが、ひとつに重なる。

理沙は、そのまま前を見ていた。



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