「西日が差している」のイントロが流れ始めた直後、湯浅は演奏を止め、もう一人紹介したい人物がいると観客に告げる。
それは、この曲の詞を書いた女性ボーカルだという。
湯浅の視線が客席の理沙に向けられ、彼は小さく手招きする。
突然のことに理沙はすぐには動けず、夏の終わりの夕方、ベランダで缶ビールを手にしながら、形にならない言葉と向き合っていた時間を思い出す。
だが、観客のざわめきと視線の中で、理沙は息を吸い、前へ進み出る。
人の間を抜け、ステージに上がると、照明が強くなり、拍手と歓声が起こる。
理沙は湯浅の隣に立ち、マイクを受け取る。短く名乗るだけで、それ以上は語らない。
再びイントロが流れ、理沙は暗い客席へ向かって最初の言葉を歌い出す。
声は震えず、女性側の歌詞が音に乗って前へ出ていく。彼女はもう、止まらなかった。
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