001_30_女帝と呼ばれる位置に立つ(2)

月末のミーティングは、いつもより静かだった。

営業が終わり、全員が揃う。
空気が、少しだけ張っている。

ママが前に立つ。数字が読み上げられる。
順に名前が呼ばれていく。
途中で、間がある。

一拍だけ置いて、最後の名前が出る。

「一位、彩名」

それだけだった。

拍手は、すぐには起きなかった。遅れて、いくつか重なる。
形だけの音。
長くは続かない。

彩名は動かなかった。

表情も変えない。ただ、その場に立っている。
隣に、理沙がいた。

視線を感じる。横を見る。
理沙がこちらを見ている。

口元は動かない。
目だけが、少しだけ柔らかい。

それで十分だった。
彩名は、わずかにうなずく。それ以上は返さない。

ママの声が続く。

次の話に移る。

注意事項。数字の確認。翌月の方針。
内容は頭に入っている。
だが、残らない。

終わりの合図で、空気がほどける。

人が動き出す。控室に戻る。扉を閉める。
音が、少しだけ大きく聞こえる。
中の空気は、さっきより軽い。

だが、静かだった。

いつもなら、声がある。

小さな笑い。押し殺した言葉。視線の交差。
今日は、それがない。

誰も何も言わない。
それぞれの動きに戻る。

彩名は、自分の席に座る。
バッグを開ける。中身を確認する。

手は動いている。頭は別のところにある。
視線を上げる。
誰も見ていない。

そのことを、確認する。

視線は逸らされている。あえて向けない形。
それが一番分かりやすい。

彩名は、口元をわずかに動かした。
笑ってはいない。
ただ、形だけが動く。

一位になった。
それは事実だった。だが、それだけだった。
終わりではない。

ここから、始まる。

次に落ちる可能性も、同じだけある。

数字は残らない。
積み上げても、消える。維持しなければ意味がない。
その位置に、立っただけだった。

彩名は、息を吐く。

音は出さない。視線を落とす。
指先に、わずかに力が入る。
止めない。

そのままにしておく。

次に越えるものが、すでに見えていた。
形ははっきりしていない。だが、確実にある。

彩名は、それを見ていた。



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