5.中央制御室で音楽が流れ始める
中央制御室では、制御パネルの前に理沙が立っていた。横顔だけが、パネルの光に照らされている。言葉はなく、動きは必要最小限だった。
手元のフラットパネル端末には、カダラシュから受領した最新版の推進システム制御モデルデータが表示されている。
確認を終えると、理沙は端末を操作し、そのデータを制御サブシステムへとアップロードした。進捗を示すバーが静かに伸びていく。
会議室では、船長と制御システム担当のブルーノ・リスナールが、会議テーブルを挟んで向かい合っていた。
二人とも腕を組み、低い声で短い言葉を交わしている。壁面ディスプレイには、中央制御室で理沙が見ているものと同じ画面が共有され、
モデルデータの転送状況が表示されていた。
そこへ、メリッサとレイラが会議室に入ってくる。二人はそれぞれ食事プレートを手にしており、合わせて四人分が揃っていた。特に言葉を交わすことなく、
テーブルの空いた場所にプレートを置く。
再び中央制御室。アップロード完了を示す表示が出ると、理沙はそれを確認し、小さく息を吐いた。動作は止めず、次の操作に移る準備を整える。
中央連絡通路には、いつもと変わらない静けさがあった。だが、その空気を切り替えるように、突然音楽が流れ始める。
マライア・キャリーの「Emotions」だった。船内では、乗組員十二人が六人ずつ二つのチームに分かれ、十二時間交代のシフトで作業をしている。
船内時間の零時から一時、そして十二時から十三時は昼食と休憩の時間とされ、その間は各自が選んだ音楽を流してもよいことになっている。
中央制御室に戻ると、「Emotions」がBGMとして流れる中で、理沙は制御パネルに視線を落とした。「Simulation Mode」の表示をタッチし、
ステータスが有効になったことを確認する。その後、ためらうことなく「Restart」をタッチした。
会議室でも同じ音楽が流れている。メリッサとレイラは食事を始め、船長とブルーノもプレートに手を伸ばす。
会話は途切れがちで、視線は時折、壁面ディスプレイへと向けられる。画面には、中央制御室で進行している処理が、そのまま表示され続けていた。