6.推進システムのテスト
中央制御室では、推進システム制御サブシステムの起動が完了していた。制御パネルの表示が安定状態に移行したのを確認し、
理沙は視線を上げることなく、静かな声で指示を出す。
「シミュレーション開始」
少しの間を置いて、メインシステムが抑制された音量で応答する。
「シミュレーションを開始します」
BGMとして流れていた「Emotions」が終わり、間を空けずに次の曲が始まる。マライア・キャリーの「Vision of Love」だった。音量は控えめで、
室内の空気を押し出すほどではない。
理沙は続けて指示を出す。
「推進システム、起動。出力、段階的に上昇」
制御パネルの構成表示が変化し、高温プラズマ噴射のプロセスが開始されたことを示すインジケーターが点灯する。数値はゆっくりと上昇し、
警告表示は出ていない。
船外映像が切り替わる。映し出されているのは「エンデヴァー」の後部。巨大な船体は静止したままで、推進部にも変化は見られない。無音。
シミュレーションモードのため、実際の噴射は行われていなかった。
中央制御室では、「Vision of Love」が流れ続ける中、テストは予定通りに進行していく。理沙は言葉を発さず、画面上の出力上昇表示を見つめている。
数値の変化とグラフの動きだけが、時間の経過を示していた。
会議室では、船長とブルーノが食事に手をつけないまま、壁面ディスプレイを注視している。表示されているのは、推進システムのテスト状況だった。
二人とも腕を組み、視線を外さない。
一方で、メリッサとレイラはプレートに手を伸ばしながら、穏やかな調子で会話を続けている。ときおりディスプレイに目を向けるが、表情に緊張はない。
音楽と談笑が、会議室の空気をわずかに和らげていた。